「公子が見つかりました」
高い天井は、見上げると虚ろな闇を孕み、磨きぬかれた床がそれを映す、混沌とした広い宮殿の大広間に朗々とした声が響く。青玉の甲冑を身に着け、ひざまずき、男は玉座の二人を見上げて言った。
玉座に並ぶ一対の男女、一人は緑柱石の典礼用甲冑に身を包んだ長身の美丈夫。兜は外し、横に置かれ、長い漆黒の髪を緩やかに束ねていた。一人は白い肌に紅が映え、大名の奥方然と玉座腰を降ろしている。白絹の袿姿に、漆黒の長い髪を結い上げ、珊瑚の簪でまとめていた。
玉座の男……海の龍王が身を乗り出して答える。
「……して、公子は何処に」
驚きと喜びが一度にやってきたのを抑えられずに、声を上ずらせている。並んだ玉座の女……龍王の奥方は、肩を震わせて、喜びの涙を袖で覆っていた。
「狭間(はざま)の世界……神々行き交う湯屋にございます、公子はそこに……」
跪いた青玉の甲冑の男は、頭を深々と垂れた。
「あなた、それでは……」
奥方の潤んだ眼差しに、龍王は頷き、騎士を促した。
「急ぎ迎えを、そして皆に伝えよ、公子が戻ると、この海底神殿の世継ぎが」
龍王の言葉に青玉の騎士は立ち上がり、礼をとると、そのまま一歩後ずさり、マントを翻した。水流の渦が立ち上がり、騎士の姿が消えると、龍王は奥方を抱き寄せて、涙を拭った。失われた息子、行方知れずであった子供が戻って来るのだ、それにまさる喜びはないと、夫婦は喜び、抱きあった。